« シューマンコンクール1989⑫ | トップページ | シューマンコンクール1989⑭ »

2020年6月13日 (土)

シューマンコンクール1989⑬

[6月13日]本選1日目
今日から本選だ。夜7時から2人ずつ、3日間に分けて行われる。
 
リハーサルは当日朝、1時間だけだ。
初日の今日は最初にソ連のスチコフ、そして私。
 
午前11時からオーケストラとのリハーサルが行われた。
指揮はアルブレヒト・ホフマン、オーケストラはツヴィッカウ市管弦楽団。
会場は予選と変わって、コンツェルトハウス"ノイエ・ヴェルト"である。
 
Img_7052
とても美しいホールだ。
ラング先生は昔、ここでシューマンのコンチェルトを弾かれたそうだ。
先生が弾いたホールで、同じピアノで、同じシューマンのコンチェルトを私が弾くのである。
 
会場に着くと「僕は行かないから、一人でやってごらんなさい」と仰っていたラング先生が、柱の陰に隠れるようにして先にいらしていた。
やっぱり心配になられたのだろう。
 
リハーサルは果たして、問題大ありだった。
録音したカセットテープをきいてみたら、物凄く速いテンポで弾いてしまっていた。
当の私はそれでいいと思ってどんどん速く弾くものだから、オーケストラを引っぱっていて全く酷いものだった。
 
ここからが勝負である。
私は体力を消耗しないように、また本番のピアノの鍵盤の感覚を忘れないように、もう練習はやめて、ひたすらその録音テープを5回も6回も聴いた。
頭の中で修正するのだ。
 
夜8時、出番だ。
楽屋で緊張していると、ラング先生がいらした。
「緊張しているのかい?あなたは音楽をするんだよ!」
 
舞台袖で私は、指揮者のホフマンさんに言った。
「私はあなたを信じます。とにかくコンビネーションを大切にしたい。」
リハーサルで勝手気ままに弾いたことが恥じられて仕方なかったのだった。
 
明るい舞台に、オーケストラの楽団員の間を縫うように出ていった。
私はリハーサルの時より遥かに良くオーケストラを聴きながら弾くことができた。
"一緒に音楽をする"ということを常に心がけた。
 
Img_7061
(シューマンのピアノコンチェルト イ短調 Op.54を演奏)
   
長いようで短い30分が終わった。
拍手が起こり、ヨーロッパでは気に入った時のお客さんの反応として足で床をバタバタ踏み鳴らすのだが、2度3度とカーテンコールに応えるたびに、それが地響きのように聞こえてきた。
私は聴衆に受け入れられたのだった。
 
楽屋から出るとハイデさんが花を持って迎えに来てくださっていた。
これで用意したプログラムの全てを、私は弾き終えたのだ。
充実感があった。
 
つづく

« シューマンコンクール1989⑫ | トップページ | シューマンコンクール1989⑭ »

音楽」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« シューマンコンクール1989⑫ | トップページ | シューマンコンクール1989⑭ »