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2020年6月10日 (水)

シューマンコンクール1989⑪

[6月10日]必死の2次予選

  
きょうは私の第2次予選で朝9時から30分間リハーサル。
 
あまり調子が良くないなぁと思いながら弾いていると、同じメロディーを後ろのピアノで弾くのが聞こえ、振り向くとラング先生がいらしていた。
先生もじっとしておられず来られたのだろうか?
 
「調子はどうだい?」ときかれたが、とにかく寝不足で腕の重い私である。
「よくありません」と答えると「そんなことはない。大丈夫だ、大丈夫だ」と励まされた。
私の次の参加者が病気で棄権したので、あと15分長くリハーサルができるという。
 
彼女は東ドイツの参加者で、一次予選ではしっかりしたテクニックで安定した演奏をきかせており、少々冷たい感じがするが有望な一人だと思っていたのでその棄権の知らせにはとても驚いた。
私は調子が悪いが彼女のように病気で棄権するのはさぞ無念であろう、と弾けるだけでも幸せなことだと思った。
 
午後の本番までにもう一度、コンセルヴァトワールでおさらいするつもりだった。
ところがいざピアノの前に座って弾いてみると腕が重い。
私は泣きたくなった。弾けないのだ。腕が重くて動かない!
ここで無理をして練習したら本番では全く弾けなくなってしまうかもしれない。
もう練習はせず本番にかけるしかない。
そう思って長い間ピアノの前にボーッと座っていた。
 
本当に何が起こるかわからない。
私はゆっくりゆっくりと、会場のゲヴァントハウスまで歩いて行った。
 
会場に着くと丁度私の前のスチコフが終わり、彼は広場でサインを求められているところだった。
 
果たして私は弾き終えることができるだろうか?
弾き出してみなければわからない。
弾けなければ途中で止めればいいのだ。
一次予選の時、闘志に満ちていたのとは全く違う状態だった。
 
午後2時半。私の出番である。
自然に、あるがままに・・・そう思って、弾き出した。
 
調子は良くなかったが止まりはしなかった。
私はシューマンのクライスレリアーナ、ベートーヴェンのソナタOp.101 、日本人作曲家の現代曲(間宮芳生先生のディフェレンシアス)という約55分のプログラムを弾き終えた。
Img_7220  
   

聴衆は温かく、私は何度も舞台に呼び戻された。
聴衆に対して誠実でいられた!ベストは尽くすことができた!支えてくれた人たちへの感謝・・・そんな思いでいっぱいだった。
 
楽屋から出てくると数人にサインを求められた。
こちらでは日本人が珍しいのか、日本語で書いてくれと頼まれる。
事務局のハイデさんも聴きに来ていらして、えらく私の演奏を気に入ってくれた様子だった。
 
あまりに疲れていたので、ハイデさんに連れられて車に乗り込みホテルへ戻った。
たくさんの人から賛辞をもらったけれど、音の伸びは一次予選に比べれば良くなかったので意気揚々といった感じは全くなかった。
 
今日は腕を休ませなければならない。
夜の2人は私と同じ曲を弾くので聴きに行くことにした。
この2人の演奏を聴いて、疲れているのは私だけではないと思った。
2人とも男性だったが本当に辛そうだった。
私にはその気持ちがよくわかった。
みんな自分と闘っているのだ。
 
つづく

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